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【講演再録】
「医療安全管理者のキャリア・ラダーを考える(1)」
※ここでは,2007年10月26日,日本病院管理学会において開催された標記パネルディスカッションの内容を再編し掲載します.
本テーマは,2008年8月の日本看護管理学会年次大会にバトンタッチを行い引き続き議論を深めるという,
リレーパネル形式を計画しています.また,来年より本誌誌面においても議論を重ねていく予定です.
橋本廸生氏(横浜市立大学附属病院 医療安全管理学教授)[座長]
勝原裕美子氏(聖隷浜松病院 副院長・総看護部長)
徳永英吉氏(上尾中央総合病院 院長代理)
藤井美代子氏(都立豊島病院 看護担当科長(副看護部長))
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橋本
本テーマ「医療安全管理者のキャリア・ラダーを考える」は,リレーパネルとして,
来年8月の看護管理学会(会長・菅田勝也東大教授)に引き継いで議論していきたいと思います.
50分という限られた時間ですので,効率よく進めていきたいと思います.
問題を一般化して考えると,病院という容れ物には,たくさんのプロフェッショナルがいて,
それぞれが力を合わせて,患者さんの治療に向かっています.いわば異文化併存組織のなかで,
医療安全管理者のキャリア・ラダーを考えるとき,「組織」と「個」の2つの切り口から考えることができます.
すなわち,病院という組織のなかでの特定の能力の発揮という位相と,
もう一つはプロフェッショナルとしての個人の資質開発とキャリア・アップ,という位相です.
この2つが相互作用して活動のアクティビティが高まるわけですが,これを医療安全管理者,
それも看護職の医療安全管理者にあてはめて考えてみると,どうでしょう.
医療安全管理者の能力というのは,別に特定の者だけがもつ能力ではないと考えています.
かりに医療安全能力(コンピテンシーと言い方もありますが)というものがあるとすれば,
これは,f(知識,技能,態度)×g(コミュニケーション能力や調整統合能力)の2つの関数から成っているのだと思います.
gは,いわゆる管理能力に近いことがわかります.このなかには職員の教育・研修を企画するような能力なども含まれます.
専門看護師など特定の分野のスペシャリストと対比すると,ゼネラルな能力の高い人,
それも一種の専門性といえそうですが,そういう人たちを組織のなかでどう生かしていくべきでしょうか.
これからパネリストとともに考えていきたいと思います.
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この問題を一般化して言うと、
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1.病院組織のなかでの特定の能力の発揮,という位相
:組織
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↓↑
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2.Professionalとしての個人の資質開発とキャリア・アップという位相
:個人
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医療安全能力
=f(知識,技能,態度)
×g(コミュニケーション能力,調整統合能力)
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勝原
私は看護師のキャリアを考えながら教育に携わってまいりましたので,
キャリアの視点から,医療安全管理者の歩み方をどう考えるかということをお話ししたいと思います.
今年の3月に出た厚生労働省の『医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針』
をみていくと,医療安全管理者は,部門間・職種間調整力やリーダーシップ,教育的かかわりや観察・分析力,
そしていろいろなことに応えていくトータルな誠実さが求められています.これらをキャリア・ラダーにどう整合できるでしょうか.
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一般に管理者に求められる能力というのは,第一線監督者=職場長・主任は,その領域の専門性が求められるのに対し,中間トップ,トップマネジャーになるにしたがって,より大きな枠組みでみる視点,あるいは将来を描けるといった概念化能力が求められます.ところが,コミュニケーション能力は,どのレベルのマネジャーであっても同じように等しく求められる能力とされているわけです.
では一般的な管理者ではなく,医療安全管理者ではどうでしょうか.これは私が勝手に想定している図ですので,異論があるかもしれませんが,私がいままで出会いました医療安全管理者,あるいは様々な文献を読むなかで,こうなんじゃないかという図を描いてみました.
ここでいう専門性は,医療安全管理に関する専門知識,プラス医療に関する専門知識を意味しており,看護師でなければいかないとか,薬剤師でなければいかないとかの制約はありません.やはり非常に大切なのは,コミュニケーション能力だと私はとらえております.もちろん概念化能力は必要ですが,それよりもコミュニケーション能力がいちばん求められるのではないか,部門間・職種間の調整,それからリーダーシップをとっていくにしても,さまざまなところでのコミュニケーションが必要です.また,ご家族とのコミュニケーションもあります.これをラダーで考えますときに,第一線管理者とトップマネジャーという形で分けてラダーをつくっていけるんだろうか? と考えたわけです.主任クラスの医療安全管理者だからこの辺り,部長クラスの医療安全管理者だからこの辺りというラダーができるんだろうか,というのが一つ私の疑問でございます.
さて,10分という短い時間ですのでさっそくまとめに入らせていただきます.医療安全管理者のキャリア・ラダーをつくっていくということを,キャリア論の視点から考えますと,次の2つがポイントになります.
ひとつは,看護師のキャリア発達のなかでの位置づけということで,なによりも臨床家としての看護師が医療安全の管理者になっていくことをどう考えるか,そのときにキャリアパスの問題……いまスペシャリストがたくさん出ていますが,認定看護師や専門看護師のようなスペシャリストと同等の意味で位置づけるのか,それとも,あくまでもジェネラリストのなかで,一部スペシャリストの機能を担う存在としてとらえるのか,というのが根本の問題となってくると思います.
そして,ここのところは将来キャリア・ラダーをつくるのであれば考えていかねばならないと思っているのですが,どのくらい長く安全管理担当者というのをやっていけるのかな,という点です.これはあとのパネリストのお話もお聞きしながら私なりに今日考えてみたいと思いますが・・・・・・.医療安全管理者の仕事は,組織のインシデント・アクシデントレポートを分析するだけではありません.たとえば,不幸にして事故が起きたときに,専従者として,その対応にメンタルな部分でかかわるなかで,彼・彼女自身のメンタルサポートを組織としてどのように支援していくのかが課題になります.長くこの仕事を,たとえば20代後半あるいは30代でリスク分析に興味があるからといって,専従の医療安全管理者に任命し,その後定年までの20年間をずっと医療安全管理者でやっていくのが,その人のキャリアにとってよいものかどうか,本当に考えないといけないと思っています.
そして,もう一つ,そもそもラダーは必要か?ということ.ラダー,すなわち段階ということを考えるとき,いくつかの病院では複数の医療安全管理者がいると聞いておりますが,当院の例を含めましても,そんなにたくさんの人がいるわけではありません.2名とか3名とか,組織のなかでの医療安全管理を担う人のなかでラダーをつくることがどうなのか,つまり複数人が常に組織にいて,新人の医療安全管理者を養成していくという仕組みがあればいいんでしょうが,現実にはそうはなりません.つまり何段階のラダーをつくればいいのか,最高段階をどこに置くのか,ということが問題になります.先ほど,管理者の能力を3つに分けて考えましたが,ラダーを作るとなると,たとえば,あの中のコミュニケーション能力の最高とは何なのかを設定しなければなりません.さらに,キャリア・ラダーですから組織の目的との合致が必要です.賃金とのリンク等も考えていかねばなりません.
こうした現状をふまえまして,私なりの考えを述べさせていただくと,医療安全管理者にはもちろん最新の情報を収集しスキルを磨いていくための,継続的,定期的な研修は必要だと思います.しかし,キャリアの多くを医療安全管理者に費やすのが本当に必要か,ラダーというのが必要かどうかという問題提起をさせていただきたいと思います.医療安全管理者のキャリア・ラダーを新たにつくるということではなくて,医療専門職としてのキャリアを歩む中で,医療安全を担う期間を一時期設けるというのがむしろ現実的ではないか,というのが,いまの考えです.
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橋本
ありがとうございます.かなり明確なご意見が出されたと思います.また詳しくは後ほど.
では次に徳永先生,組織トップの視点からはいかがでしょうか.
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徳永
今回,リレーパネルの最初のディスカッションということで,次につなげられるものは何か,
問題として何を提示できるかを考えながら,発表資料をつくってみました.
管理者としてどのようなことを考えるかというと,組織論の話になりますが,安全文化を醸成するには,病院のガバナンスの構築が必要になります.そのなかに,医師法21条の問題のように,ハードロー的なところだけをコンプライアンスするだけではなくて,稟議的なものだとか,あるいは関連のガイドラインとか,そういったソフトローの面を高めていかなければ安全文化は醸成されていかないと思います.結局は,職員個々がモチベーションをもつことも必要ですけど,組織全体で意識をもった形で,コンプライアンスをたかめなければ,こういう安全文化は醸成できないと思っています.
その安全管理をマネジメントする人材がそこには介在しなければいけないわけですが,そうすると,われわれトップは何をしなければならないかというと,安全管理に携わる人材をどうしても育てなくてはいけないし,上席者はきちんとそれを活用できなくてはいけない.実際,そのモチベーションというのは,ご存知のように「動機付け」ということです.最近よく聞かれる「コンピテンシー」は,古典的なモチベーション理論を発展させたものともいわれますが,結局はコミュニケーション,すなわち根本的に人とかかわるなかでどう考えどう行動していくか,再度立ち止まって考えてみるべきではないでしょうか.
モチベーションというのは,当初は「何によって動機付けられるのか」という点が議論されてきましたが,最近は,「どうやって動機付けられるのか」という方向に向かってきているようです.ご存知の方もいると思いますが,マズローの欲求理論があります(図).
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図 マズローの欲求理論
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マズローの欲求段階説
・組織心理学において、職員の動機付けの手法を説明するものとして活用されてきたもの。
・本来は、人が成長する過程で満たされる欲求として五つの段階を位置づけた、いわば精神的成長の過程を説明したものとされている。
・これを活用しようするなら、共にやりがいを「発見する」というような、創造的なコミュニケーションが不可欠であり、「人間的成長」を促していくフレームワークとしてとらえることがより本質的な考え方。
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各々の段階は不可逆的なものといわれていますが,行ったり来たりすることもあると思います.これを組織の構成員にあてはめて考えた場合,給料もらって生活できればいいという職員もいれば,首になる心配せずに仕事をしたい,という欲求段階にいる人もいると思います.また一つのコミューン,たとえば一つの病院だとか,そのへんのコミュニティーに帰属して,その仲間たちと愛情を分かち合って,いい職場環境でやっていきたいという段階の人もいるでしょう.あるいは,尊敬されたいとか,人から認められたいという段階の人もいます.要は,一つの組織というのは,いろいろな段階の人たちが渾然一体としているわけであって,その人がどの段階にいるかということを見極めずに,いろいろな仕事を要求したりすると,なかなかうまくいかない.マズローの欲求理論は,人間成長を促していくフレームワークとして活用できます.これをベースに,機会を与えることによって目標と責任を与え続けていく手法が大事だと思っています.
もう一つ,目標設定論もベースの理論になります.何のためにやるのかわからないままにやれやれといっても,できるものではなくて,安全管理にたずさわる(こういうことが議論されるのもつい最近のことですけれども)こと自体,現段階でははっきりしていません.どこに到達すればいいかという目標設定の仕方と,そのフィードバックとをいろいろ検討しながらラダーをつくっていかねばならないと思っています.
私のまとめとしては,「到達目標を明確にせずして人材育成は達成できない」ということです.ラダーを作成する場合,病院管理者としてまず念頭に置かねばならないのは,先述のマズローの欲求段階を参考に,@その人がどのような欲求段階にある人材なのかを分析すること,A欲求段階に合わせたマネジメント手法を用いること,B職務満足にかかわる環境を整備し,職務不満足につながる状況の排除に努めること,が基本になると思います.
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橋本
徳永先生の話は,病院のガバナンスが必要だという観点から,2つのポイントがあったように思います.働いている人がマズローの欲求理論のさまざまな階層にいること,その混在を管理者はわかってなければならないということ.それからさらに,到達目標を設定して,そこに向かっていくような動機付けしてあげること.徳永先生の立場は,医療安全をめぐっての,職員のいろんな(医療安全だけではないようでしたが)そういう観点だと思います.後ほど,医療安全管理者にスポットを狭めて,お話ししていきたいと思います.
次は藤井さんです.藤井さんは,いわゆるリスクマネジャーの第1期生です.「私はこう活かされてきた」,あるいは「これからどういうふうに活かしてほしい」という話をしていただきたいと思います.
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藤井
私は医療安全管理者を経験した看護管理者という立場からお話しをさせていただきます.現在は副看護部長の職位にありますので,看護管理者となりますけれど,医療安全管理者と看護管理者,その2つを比べてみると,「管理」が共通のキーワードになると思います.そこでまず,言葉の定義として両者の役割について,私の経験をとおして考えてみたいと思います.
まずは医療安全管理者について.リスクマネジメントとは,マネジメント一般領域にある専門分野の一つとされています.つまり,マネジメントの専門家であるということ.組織の使命や理念を達成するために,その資産や活動に及ぼすリスクの影響から,費用対効果良く組織を守るため一連のプロセス,となっています.この「組織の使命や理念の達成」や「リスクの影響から組織を守る」というのは,病院の管理者の仕事そのもの(の一部になりますが)をしているという確認になります.日本看護協会のガイドラインでも,医療におけるリスクマネジメントとは,「リスクの把握,分析・評価,対応というプロセスを通して,まず医療の質を確保し,そして組織を損失から守ること」と定義されています.これもまた管理者としての使命の一つです.
では,「看護管理」とは何だろう,と考えてみました.昨年,ゴダードの『看護管理の原則』(絶版)を読む機会があったのですが,これは看護管理について日本で初めて翻訳された本といわれています.これによると,看護管理の原点は,「予測」「計画」「組織化」「指令」「調節」「統制」という言葉が書かれており,これらのプロセスであるといえます.これは先ほどの医療におけるリスクマネジメントの定義と重なります.
次に,リスクマネジャーはどういう仕事をしているかについて.現在いろいろな呼び名がありますが,本日は「医療安全管理者」と「リスクマネジャー」は同義として使います.「リスクマネジャーは,リスクマネジメントのプログラムの計画・管理・実行者である」.といわれており,先ほどのゴダードの看護管理とまったく同じ言葉が出てきています.
そして,リスクマネジャーの仕事は,安全を重視する組織・風土をつくっていく.それをみんなができるようしていくこと.すなわち,「計画」と「組織化」,そして現場の「支援」,これが本当に大切です.
では,私自身はどんなキャリアを積んできたのか,というと,管理を行う上での対象とする範囲や役割が変化してきたのかな,と思っています.一病棟の看護師長のときでも,看護職に限らず,いろいろな職種の方々と仕事をともにしましたが,ある程度,限定された部署や職種のなかでの活動になります.その後,リスクマネジャーとなって,院内のあらゆる部署,他職種の方々にかかわり,仕事をしていきました.このとき,本当に病院全体をみられるようになったと感じます.リスクマネジャーを経験したあとに,私は一度看護師長に戻りました.それは,副看護部長になる前の1年間ということで戻ったのですが,この時点の視点が非常に貴重でした.病院全体をみたあとにまた一つの部署のなかに戻って一看護単位を担当し,そこからまた全体をみるということで,さらに視野の広がりを感じました.これは,そのあと看護部門全体を管理する,いまのスキルにつながっていると思っています.
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ゴダードの看護管理の原則によれば、
管理とは、ものごとを可能にする1つの方策である
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予測
1 計画
2 組織化
3 指令
4 調整と統制
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H.A.ゴダード著,小林冨美栄訳:看護管理の原則, 医学書院, 1960(絶版)
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看護担当科長(副看護部長)になって
・今、振り返ってみると・・・ 実はあまり困らなかった
・それはなぜか
リスクマネジャーとして・・・
「安全を最優先」ゆるぎない信念
病院全体を見てきた経験
組織の仕組みを知り、仕組みを創ってきた経験
すべての職種に関わり、各部門の状況を知った上で解決策を見出してきた経験
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私は,看護担当科長(東京都の副看護部長職の呼び方)になって4年目を迎えていますが,振り返ってみると,この任務に就いてあまり困らなかったという思いがあります.それはなぜかと考えてみたのですが,管理を行う上で「何をいちばん大切にするか」という点で,もう揺るがないものがあったからではないかと思います.医療安全管理者の経験から,「安全を最優先にして,良質な医療・看護を提供する」.それが第一であるということが,身にしみていたように思います.病院全体を見てきた,または見られる立場だったということが自分を鍛えてくれたのかも知れませんね.それから,組織の仕組みを知り,組織を創ることに関与してきたという経験,つまり医療安全の組織づくりや,さまざまなマニュアルづくりもそうですが,医療安全に関するプロジェクト活動をとおして,すべての職種にかかわり,各部門の状況を知った上で合意できる解決策を見出してきました.その経験が副看護部長という職になっても,このときのものの見方という点で,非常に役に立ったと思います.また、看護部長・副看護部長の仕事をかなり近くから見ていたことも大きいと思います。
リスクマネジャーの仕事はやはり信念がないと続けていけません.安全を最優先にするということ,そして取り組み続けること.これが大事なことで,簡単にはあきらめないといった心が育ってきたように思います.それから広い視野,九州大学大学院の鮎澤純子先生の言葉を借りると,「足元を固めつつ,遠くの方向を見つめる」ことが必要であるということです.リスクマネジャーとして,具体的にどんなことをしてきたのか,というと,今日はあまり時間がないので,1つだけ紹介します.私が都立広尾病院で医療安全管理者の役割を担ったのは,99年の消毒薬誤注入事故が発生した約半年後のことです.その後,ネブライザー薬液を取り違えそうになるという事例があり,大事には至りませんでしたが,重要なヒヤリハット事例として認識しその対策に着手しました.院内で医師・薬剤師・看護師によるプロジェクトをつくって,ネブライザー薬液を標準化し,製剤化する取り組みを行いました.この取り組みをとおして他職種のメンバーと協力・協働し,院内に新しい基準を生み出していくことや,組織全体として取り組み成果を確認しあえることの喜びと大切さを経験してきたと思います.
では看護管理者になってから,それがどう生かされているかという点についてですが,先ほどの安全最優先という考え方が一つ,さらに「現場を支援する」という姿勢,これは大変役に立っていると思います.副看護部長ということで,看護師長の指導・育成という役割もありますが,そのときも「支援」という姿勢を大切にして臨んでいます.これもリスクマネジャーという経験をとおして身についてきたことだと思っています.
ほかにも,当然ですが,事故発生時のノウハウについてわかっているということ.委員会の設置や運営などについても,今までも事務部門との協働で行ってきたことなので,やり方がよくわかっている.だからスムーズにできる.もう一つ大きいのは,リソースの活用についてです.リスクマネジャーのとき,自分自身がスタッフ機能として働いてきましたから,専門看護師や認定看護師にリソースとしてどうやって活躍してもらったらいいのかについて考えるうえで非常に役立っています.それから,何よりもリスクマネジャーを支援できる立場であると思っています.
管理に対する基本的な考え方は,本当にリスクマネジャーの時代に培われたものが大きいのですが,「スタッフそれぞれのもてる力を最大限に発揮できるようにしていくこと」だと思っています.そのほかにも,リスクマネジャーの経験をなにか生かせることがあるかと考えてみると,たとえば,役割をもって,もっと院内の安全管理にかかわっていくという立場になるのもいいかもしれません.そして将来.一般論として,医療安全管理者のキャリアについて,将来を長いスパンで考えたときに,いろいろな選択肢があると思います.たとえば,看護職のトップや副院長,またいまは新人や看護学生の医療安全教育のあり方が問われていますから,教育の道も選択できるかもしれません.同じリスクマネジャー第1世代で,元横浜市立大学付属病院リスクマネジャーの平林明美さんは,行政の看護職を経て,現在,日本看護協会関連の職場(注:看護協会出版会「看護職賠償責任保険制度」サービス推進室長)で仕事をされています.そうした多様な選択肢が考えられると思います.
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橋本
ありがとうございました.残りがあと15分ですので,絞った話しをお聞きしたいと思います.
藤井さんの経験に基づいた話を少し展開していきたいと思いますが,勝原さんはなにかコメントありますか?
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[以下,パネルディスカッション]
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勝原
やはり信念をもって,というところがすばらしいなというのが正直な感想です.
徳永先生のお話とも関係するのですが,やはり信念をもつに至るまでに,
最初ご自分が医療安全管理者としてモチベートされる,なにかいくつかの要因があった.
だから,いろんな成功体験を繰り返して,これだという信念をお持ちになったと思うのですが,
決して楽な仕事ではないですよね.むしろストレスフルな仕事のなかでモチベートされてきたことっていうのは,
いったいなぜなのだろうって…….
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橋本
きっと成功体験だけではないですよね.不成功体験もあると思いますが(笑).
藤井さんは,どのようにしてそのへんを切り抜けてきたのでしょう?
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藤井
やらなければいけない組織にいたということが大きいと思います.社会的にも大きな影響があった事故で,
組織でそれに取り組むということが社会的使命でした.それに対する組織的支援がありました,
ですので,成功体験から,というわけではないですが.
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勝原
結論が見えちゃったら申し訳ないですが,これから,医療安全管理者のキャリアを考えていくうえで,
私がいちばん懸念している「長くやることが良いことなのか」ということについて.
私も3月まで大学におりましたけど,自分の教え子が大学院を出て,
20代後半でリスクマネジャーとして病院に就職しましたが,彼女はこれから30年,
ずっとその職をやることがどうしても想像つかなくて・・・・・・.長くやることが推奨できるのか,
ちょっとお聞きしたいのですが.
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藤井
私は3年と6か月の任期でした.それくらいがよかったというのが実感です.
もっと長くされている方もいらっしゃいますし,第1世代で,現在も続行されている方もいます.
基本的には,「医療安全管理者を経験して次のステップにいく」というのが私はいいと思っています.
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橋本
徳永先生にお聞きしますが,誰かを医療安全管理者に任命しなければならないとき,
責任のある上司はどういう視点で選んでいるのでしょう? つまり資質のある人を選んでいるという,
そういう節はあるのでしょか?
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徳永
実際には,「コミュニケーション能力のある人」.それがもう,いちばんです.
現状では,あなたが(医療安全管理者を)やりなさいと言われても,無理な仕事もあるから,
それでめげている人もたくさんいるのだと思います.そうしたときに,
やはりコミュニケーション能力がないとやっていけないんじゃないかと.要するに,
どれだけ飲み会を開催できる能力があるかということです.
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橋本
なるほど(笑).コミュニケーション能力,すなわち組織のなかで調整していくような能力がまずベースにあって,
その上に期待するものはあとで開発される,もしくは期待しないということでしょうか?
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徳永
難しいですね.本来,それはその人がある程度もっている能力だと思います.
内在しているものを覚醒させるということは必要だと思いますけど.良いたとえかわかりませんが,
たとえば小さい頃ガキ大将だった人などは基本的にはそういう能力に長けているので,
私はそういう人を選べばいいと思うんですけど・・・・・・.
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橋本
ありがとうございます.藤井さんのお話のなかで,「病棟の師長からリスクマネジャーになって,
あるとき全体をみることになった.そして部署に戻ってまた一師長になったのだけど,
そのときにリスクマネジャーのときに身に付いた“全体をみる”という視点が役立った」というのは,
かなり面白い話だなと思いました.
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藤井
リスクマネジャーは特権をもったスタッフであって,ある意味,いろいろな権限がありました.
院内全体に及ぼす影響力をもっていたわけですが,一部署に戻ってそれがなくなった.なくなってみて,
でも自分の部署で,いろいろな管理をしていくときに,その特権を持った人(リスクマネジャー)にどう動いてもらいたいか,
特権をどのように使っていくべきかという点,また,リスクマネジャーと一部署の看護師長との違い,
それらが私の場合,明確になりました.
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橋本
リスクマネジャーをやって全体がみえた,そういう環境要因はあったにしろ,看護・ケアという以外に,
安全を優先するという軸足ができたことは印象的ですね.
僕は座長ですが,僕の視点=医療安全管理学の観点からいうと,たまたま病院管理学で,
病院機能評価というのを組み立てていくプロセス,病院というのがどういうものかって,
それでサーベイランスにいって,病院のなかを外部の人間としてみてきて,そしてなんとなくわかった気になっている.
それで,現実に,生に,本当に部署に入っているのかというと,そうでもないのですが.
いろんな起こってくる事象にまつわる,組織的な誘因だとか,あ,やっぱりそうなのか,
と違うところから全体をみるという,そんな面白い経験だなと感じています.たぶん同じですよね.そういう安全管理にたずさわる,
その人のキャリアのなかで,どう位置づけられるべきかという話はどうでしょうね.長い間やるやらないという任期の問題も含めて.
徳永先生のところではどうしていますか?
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徳永
うちではグループで,安全管理者,安全推進者,安全実践者という3つのラダーをつくって,今年で3期目になります.
そうしたある程度の認定作業を行って,その認定を得ないかぎりは上にはあがれないという形での,
グループでの取り決めをすべきではないかと思っています.話は戻りますけど,僕も長くはやるべきではないと思います.
それなりに,かなりいろんな面でスキルアップできるから,それを病院全体として生かさない手はないと思っていますから.
実際には4,5年やったら,もっとマネジメント手法を,スキルをもったところを生かしていけるような,
一つのステップアップになっていく.そういうふうなことを一つ考えています.ちょっと今日の問題にそぐわないかもしれないけど・・・
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橋本
ボクも同じ意見ですね.事務方では,彼らのキャリア・ラダーを考えるときに,
病院全体のお金の流れをわかった人が医事課長になるとか.それと似たような,
全体の動きをよく把握できる部署だろうと思います.
時間があと3分になりました.なにか言っておきたいことはありますか? では,菅田先生がお見えですので,ひとことお願いします.
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橋本
限られた時間で,その先の議論もしたかったのですが,一応,問題の所在と,
切り口というようなものを明らかにできたのではないかと思っています.
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ご清聴ありがとうございました.
(終)
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